『高次脳機能障害の夫と暮らす日常コミック 日々コウジ中』(柴本礼・主婦の友社)

 会社を立ち上げて仕事に邁進していた夫が2004(平成16)年くも膜下出血で倒れ、高次脳機能障害になります。その夫に寄り添い、見守り、ともに人生を歩む妻が描いたノンフィクション漫画です。

 高次脳機能障害の本人の特徴や家族の苦悩が分かりやすく描かれます。意欲の低下や感情の振幅、幼児化、状況判断ができない、記憶障害、保険会社との闘い、友人たち……。どれもこれも高次脳機能障害あるある、でしょう。

 家族会に入り交流会に参加し、企業に採用されて社会復帰を果たします。妻は夫とともに歩む覚悟を持って力強く前進します。とはいえ、きれいごとではありません。変わってしまった父親に対して当時小学生だった娘の戸惑いや嫌悪なども包み隠さず描いています。

 やわらかいタッチでほのぼのとした作風の漫画であることが功を奏して、夫の変貌ぶりや介護の大変さがオブラートに包まれたようにソフトに伝わってくるのが特徴と言っていいでしょう。ときには笑いを誘います。もちろん涙もあります。高次脳機能障害の夫にも筆者である妻にも、いつの間にか自然に共感を抱いていました。温かい作品です。

 この漫画は、高次脳機能障害の本人の物語であると同時に家族の物語でもあります。高次脳機能障害になった本人が大変なのは言うまでもありませんが、支える家族の大変さは勝るとも劣らないものがあると思います。本書では前向きに支えてくれる家族がいます。夫はしあわせだと言っていいのではないでしょうか。しかし、夫を支え続ける妻を誰が支えるのだろうかと気になりました。

 私(西野)は高次脳機能障害の本人を抱えたご家族を訪ねるたびに感嘆してきました。いや、感嘆と言うより驚嘆と言うほうが的確かもしれません。支えられている本人の努力もさることながら、本人を支えている家族の尽力に対して、です。

 この本を読むことで、高次脳機能障害を知らなかった人は基本的な情報を得ることができるはずですし、暗中模索している家族には今後の道がおぼろげながらも見えるのではないかと思います。

 高次脳機能障害の家族をはじめ、高次脳機能障害を知らない人や学びたい人にもお勧めの本です。

 アマゾンのサイトで買うことができます → 日々コウジ中―高次脳機能障害の夫と暮らす日常コミック

『脳梗塞日誌』(日垣隆・大和書房)

『「買ってはいけない」は嘘である」』で第61回文藝春秋読者賞受賞、『そして殺人者は野に放たれる』で第3回新潮ドキュメント賞受賞など、作家でギャンブラーの日垣さんは立花隆さんの後継者のような位置にいました。戦場さえ駆け巡り、ノンフィクションやエッセイなどを数多く執筆してきたのです。ギャンブルに滅法強い鬼才でもあり、世界中のカジノで稼いできました。そんな日常がグアムでの脳梗塞で一転します。

 グアムの米軍病院に入院し、帰国後は東京都内の病院に転院、リハビリを積み重ねます。実は私(西野)は日垣さんの主宰する会に参加していたことから、毎月お会いするたびに後遺症との死闘ぶりを垣間見てきました。最初は車椅子でした。話し方がたどたどしく、唾液の飲み込みにさえ苦労している様子でした。右手は全く動いていませんでした。

 それが、月日が経つにつれて変わってきます。杖をついてゆっくり歩きます。話し方が滑らかになってきます。右手で本を3冊掴んでいます。病院のリハビリで済ませず、自前でリハビリの専門家を雇い、文字通り血みどろになって病魔に立ち向かいました。リハビリを病院任せにしない視点と実際の行動は私にとって目からうろこでした。日垣さんはあらゆることをリハビリにしていました。電話で友人としゃべるのも、利き手ではない左手でアイフォーンを持って文字を入力するのも、全てリハビリにつながるのです。

 もちろんリハビリは必ずしも順風満帆というわけではありません。死の誘惑との闘いもあります。再発への恐怖との闘いもあります。率直に書いているだけに涙を禁じ得ません。

 しかし、こころが折れそうになりなりながらも日垣さんの頭抜けた知性が見事に統制するのです。闘病中の本人や家族にとって学ぶことがたくさんあるのではないかと思いますし、勇気づけられるに違いありません。

 脳梗塞を患った人たちが本書を読んで「すごい」と感嘆していました。リハビリの重要性を知るためにもお勧めの本です。

 アマゾンで買うことができます → 『脳梗塞日誌』