手帳の話

 高次脳機能障害は行政と無関係ではありません。家族が高次脳機能障害になった場合、以下の点で行政手続きをすることが大事です。なぜなら、こちら側から申請するのが原則だからです。こちらから申請しなければ行政サービスを受けることができないのです。待っていては駄目なのです。本人の看護や介護で慌ただしいかもしれませんが、優先すべきことです。
(1)介護保険サービスの申請
(2)障害福祉サービスの申請
(3)失業手当の給付申請
(4)高額医療費の申請
(5)障害年金の申請
(6)労災の申請

Q:上記のようなサービスや制度を使うためには、まず障害者手帳を取得することが大事だと聞きます。

A:はい。上記のサービスや制度を使うために必ずしも全てにおいて手帳が必要ということではありませんが、障害者手帳には3種類あります。
・身体障害者手帳(1~7級)
・療育手帳
・精神障害者保健福祉手帳(1~3級)
 いずれも数字が小さい方が重い状態です。

Q:何がどう違うのですか?

A:身体障害者手帳は身体障害者福祉法に基づき、法の別表に掲げる障害程度に該当すると認定された方に対して交付されるものであり、具体的には、
・視覚障害
・聴覚障害
・平衡感覚障害
・音声・言語機能障害(失語症)
・そしゃく機能障害
・肢体不自由(身体麻痺)
・心臓機能障害
・じん臓機能障害
・呼吸器機能障害
・ぼうこうまたは直腸機能障害
・小腸機能障害
・ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害
・肝臓機能障害
 が挙げられます。

 療育手帳は知的障害がある人、精神障害者保健福祉手帳は精神障害がある人、と分けられていて、失語症や身体麻痺の場合は身体障害者手帳ですが、高次脳機能障害の場合は精神障害者保健福祉手帳です。

Q:精神障害者保健福祉手帳はどんな手帳ですか?

A:社会参加と自立の促進を図ることを目的として交付されます。一定の精神障害の状態にあることを証明する手段であり、各種の支援を得ることができます。

Q:高次脳機能障害のほかにも対象者はいますか?

A:何らかの精神疾患があり、長期にわたって日常生活または社会生活に制約がある人が対象です。全ての精神疾患が対象で、高次脳機能障害のほかに次のようなものが含まれます。
・統合失調症
・鬱病、躁鬱病などの気分障害
・てんかん
・薬物やアルコールによる急性中毒又はその依存症
・発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害等)
・その他の精神疾患(ストレス関連障害等)

Q:手帳はすぐに受けることができますか?

A:その精神疾患による初診から6カ月以上経っていることが必要です。

Q:どのように申請するのですか?

A:申請書や診断書、個人番号などが必要です。申請者は障害者本人です。ですが、保護者や医療機関職員らが申請や手帳受け取りなどを代行することができます。申請先は障害者本人の居住地の市町村です。詳しくは市町村の福祉担当部門に問い合わせることになります。

Q:診断書が必要なのですね?

A:はい。『続・日々コウジ中』96ページでも描かれているように、《もし「高次脳機能障害」と診断してもらえないと次々苦労することが起きてくる》のです。その苦労の1つとして、精神障害者保健福祉手帳を交付されないのです。

Q:手帳には等級があると聞きました。

A:はい。精神疾患状態と能力障害状態の両面から1級~3級に分けられます。簡潔に言うと、
・1級は日常生活が不能な程度
・2級は日常生活に著しく制限がある程度
・3級は社会生活に制限がある程度
です。

Q:手帳を持つことの利点はありますか? 窓口と併せて挙げてください。

A:精神障害者保健福祉手帳制度に基づいて税制措置などがあります。全国一律のサービスと地域や事業者によって受けることができるサービスの2つに分けることができます。まず全国一律のサービスを挙げます。

(1) 所得税
・障害者控除、特別障害者控除……確定申告の場合は税務署、給与所得者の場合は勤務先
・配偶者控除および扶養控除の同居特別障害者可算……確定申告の場合は税務署、給与所得者の場合は勤務先
・利子等の非課税……金融機関などの各営業所など
(2) 相続税
・相続の障害者控除……税務署
(3) 贈与税
・特定障害者に対して贈与税の非課税……税務署
(4) 住民税
・障害者控除、特別障害者控除……市町村税務担当課
・同居特別障害者配偶者控除、扶養控除……市町村税務担当課
・非課税……市町村税務担当課
(5) 自動車税
・自動車税、軽自動車税、自動車取得税の減免……自動車税事務所
(6) NHK受信料の減免……申請書はNHKや自治体の窓口にある
(7) 生活福祉資金の貸付
(8) 手帳所持者を事業者が雇用した際の、障害者雇用率へのカウント
(9) 障害者職場適応訓練の実施
 自立支援医療(精神通院医療)による医療費助成や、障害者自立支援法による障害福祉サービスは、精神障害者であれば手帳の有無にかかわらず受けることができます。
ただし、手帳の等級や自治体によって利用できるサービスが異なる場合があるので、詳しくは各自治体の障害福祉課や精神保健福祉課などにお問い合わせください。

Q:地域や事業者によって受けることができるサービスにはどんなものがありますか?

A:はい。例えば、NTTの電話番号案内が無料になる、一部航空会社の運賃割引、映画館などの施設の入場料割引などがありますが、手帳の等級や自治体によって利用できるサービスが異なるので、詳しくは自治体の障害福祉課、精神保健福祉課などにお問い合わせください。

Q:就職時に有利と聞きますが、どういうことですか?

A:上記の(8)に書いた部分です。具体的に言うと、障害者雇用促進法では50人以上の従業員がいる企業は障害者を最低1人雇うことが義務づけられています。100人いれば最低2人です。
 2020年4月に施行される改正障害者雇用促進法では障害者雇用に積極的な企業に対してメリットを得られるような施策が加わります。
 1つは短時間(週20時間未満)でも障害者を雇用したら「特例給付金」が支給されます。
 もう1つは、中小企業(従業員300人以下)を対象に、優良事業者の認定をします。認定マークを広告などに使うことができるようになるので、障害者雇用についての姿勢を社会に強調することができるのです。
 障害者雇用を積極的に実施する企業が増えていく流れにあります。精神保健福祉手帳を持っていることによって、この手帳の持ち主が障害者であることが企業側にはっきり分かるのです。手帳という「物」があることが証になるわけです。

Q:移動支援というサービスは何ですか?

A:一人で外出するのは心もとないものです。そんなときヘルパーさんが付き添ってくれます。高次脳機能障害の本人の外出に際しては家族が付き添うことが多いようですが、必ずしも常時付き添うことができない場合があります。
 家族が自家用車で目的地に同行することができればいいのでしょうが、本人だけが電車やバスなどの公共輸送機関を使って目的地に行くことがあり得ます。その過程でいろいろなトラブルが生じる可能性があります。本人が道に迷ったり、高次脳機能障害を知らない他人と揉めたりすることがあり得るのです。
 高次脳機能障害の本人が海外旅行を一人でできるようになった話もあります。高次脳機能障害だから家の中でじっと過ごさなければならないというものではないのです。
 精神保健福祉手帳があれば、麻痺がなくても移動支援が使えることを知っておくといいでしょう。

Q:失語症の場合は言語機能障害の手帳を取るといいと言われますが、どういうことですか。

A:高次脳機能障害はいろいろな症状があります。「精神障害」と「身体の麻痺」それに「失語症」に分けることができます。それぞれの症状に応じて手帳が異なるのです。
 具体的に言えば「精神障害」なら「精神障害者保健福祉手帳」を、「身体の麻痺」なら「身体障害者手帳」を、そして「失語症」なら「身体障害者手帳」なのです。
 精神障害者保健福祉手帳に加えて身体障害者手帳もあると、何だか重い感じがしてしまうかもしれません。しかし、この2つの手帳を持つことで、使えるサービスが増えます。気兼ねをする必要は全くありません。人間としてよりよい生活を過ごすために受けることができる当然の行政サービスなのだと考えてください。

【参考】

国立障害者リハビリテーションセンター
厚生労働省のサイト
千葉県のサイト
『手帳と年金の話』(NPO法人高次脳機能障害サポートネットひろしま)